2010 年,アメリカの金融市場で,数秒の間に市場指数が急落し復帰する現象が観察されました(FlashCrash).アメリカ証券取引委員会はこれを調査し,複数市場間の高頻度裁定取引が価格急落の引き金だと報告しました.利益を上げる取引原則は「安く買って高く売る」です.裁定取引とは複数の商品を同時に売買し,「安い商品を買って高い商品を売る」ことで,合計としてプラス利益を目指す方法です.近年ではコンピュータによる自動取引が普及し,高速化・高頻度化しています.先の報告ではこの高頻度裁定取引が市場全体を波及的に不安定にすると推測しました.
この波及的効果のメカニズムに迫るべく,本研究ではエージェントシミュレーションを使い,高頻度裁定取引の価格への影響を調べました.高頻度裁定取引トレーダは指数商品とそれに紐づいた原商品を天秤にかけて売買します.個別商品を扱う低頻度トレーダはその取引の性質から適正な価格に向けて現在の価格を動かします(図では修復力).分析の結果,指数商品と原商品1の修復力のバランスが崩れるほど裁定機会が増加し,その結果,高頻度裁定取引の副作用として金融ショック伝搬(現商品2の価格変化)が強く生じることを示しました.